忘れやすい日々のための映画ブログ

忘れっぽいので、過ごした日々・趣味の時間を大切にしていきます。

誰かに認められる≒支配される人生/『フォックス・キャッチャー』

http://img.cinematoday.jp/res/T0/01/43/v1418369670/T0014356p.jpg

カポーティ』のベネット・ミラー監督作品という点に惹かれ鑑賞。

この監督は『マネーボール』も監督しており、この『フォックス・キャッチャー』も事実に基づいています。

 

正直、あらすじも何も全く知らない状態で観たとしたら、大満足しただろう映画。

おそらく本国では有名な話のため、そもそも国民が知っている前提なのでしょうが、

私は知らなかったので、予告編でわざわざ教えてくれなくてもいいのに。。。と思いました。

じゃあどうやって宣伝するんだと言われると「アカデミー賞5部門ノミネート作品」という1点のみに。。。

仕事ができない。困りますね。マーケティングって難しいです。。

 

これから観る方は予告編はおろかポスターさえも観るべきではないと思います。

以下のあらすじはネタバレを含んでいないので、掲載します。

 

あらすじ

大学のレスリングコーチを務めていたオリンピックメダリストのマーク(チャニング・テイタム)は、

給料が払えないと告げられて学校を解雇される。失意に暮れる中、

デュポン財閥の御曹司である大富豪ジョン・デュポン(スティーヴ・カレル)から、

ソウルオリンピックに向けたレスリングチーム結成プロジェクトに勧誘される。

同じくメダリストである兄デイヴ(マーク・ラファロ)と共にソウルオリンピックを目指して張り切るが、

次第にデュポンの秘めた狂気を目にするようになる。(シネマトゥデイ

 

演技派の実力半端ない度&休日の昼間に見るべきじゃない度 10/10

カップルで行くのはNGな作品ですね。

女性目線でも男性目線でもで(なんでこの人この映画一緒に観たいと思ったんだろう)となります。

「固い絆で結ばれているの!」という方はその固さをぜひ試してください。

 

見どころは、2点

・この映画が事実が基になっている点

        →なぜ事件が起きたのか?を掘り下げていくのが楽しい

・ジョン・デュポンを演じるスティーブ・カレルの怪演

        →不気味、の一言。『40歳の童貞男』を演じていた人には見えない

 

http://i.ytimg.com/vi/RSNaNr8v7qg/maxresdefault.jpg

ジョン・デュポンを演じるスティーブ・カレルの演技が半端なく不気味。。

劇中の会話が圧倒的に少ないので、表情や空気で伝えるシーンが多いが、これが怖い。怖くて不気味な負の空気がスクリーン越しに館内を包み込みます。そのくらいの凄さです。

 

以下ネタバレ。

「どんな映画なの?」と聞かれたら、

「アメリカ3大財閥の御曹司がオリンピック金メダリストを殺害しちゃう話。

犯人のジョン・デュポンは友達もいなくて、母親の支配から逃れられなかった子供みたいな人なんだ。

人との距離の測り方すらわからなくて、ちょっと可哀想な気持ちになるよ。

劇中の台詞はすくなくてスティーブ・カレルの怪演が際立つ作品さ。とにかくすごいから見たほうがいい」てなところでしょうか。

 

この映画は大人に成長できないお坊っちゃま君(=ジョン・デュポン)が、

自分の言うこと聞かないヤツにイラツイて殺人を犯す話ですが、

・殺した相手が元オリンピック金メダリストという点と、

・お坊ちゃんの度合いが世界レベルという点が、この話を興味深いものにしています。

※デュポン財閥はメロン財閥、ロックフェラー財閥と並び三大財閥と呼ばれるレベルだそうです。

 

この事件の原因は3つあると思いました。

 

ひとつ目はジョン・デュポンが圧倒的に世間知らずの金持ち坊ちゃんだという点です。世の中には様々なタイプのお坊ちゃんがいますが、勝手に大きく以下2つに分けました。

・知性を持ち、振る舞いを熟知し、立場をわきまえたよく教育されたお坊ちゃん

・甘やかされ、周りが何でもお膳立てしてくれる世間知らずなお坊ちゃん

 

ジョン・デュポンは間違いなく後者にあたります。

後者の場合、自分がすごいのではなく、ご先祖様と周りの人がすごいだけですが、勘違いしがちです。勘違い発言や行動が増えて、痛い人になります。

 

ふたつ目の原因はジョン・デュポンが後者に該当していながらも、先祖と周りの人がすごいという事実に気がついていたこと。

これは圧倒的に悲しいことですが、気がついている点で素晴らしく、自分と向き合い、自分の力で克服することもできます。

 

ジョン・デュポンがとった行動は、フォックスキャッチャーという名のレスリングチームを作り、

兄弟金メダリスト(ひとりはコーチになっていて、ひとりは現役選手)を招聘し、ソウル五輪で自分がセコンドに入るというものでした。以下兄弟写真。

http://openers.jp/wp-content/uploads/2015/02/893282/top.jpg

自分で何かをしようとしているのはわかりますが、たくさんあるお金を使って優秀な人を連れてきただけ。

本人にはレスリングの知識もそんなになく、どちらかと言えば口を出して邪魔をしてしまいます。

http://img-cdn.jg.jugem.jp/5e6/1864267/20150219_1024022.jpg

選手からすれば「お金だけ出してくれればいいのに」といったところでしょうか。。。

 

あるとき、このジョン・デュポンがマーク・シュルツに

「僕には友人がいない。いたと思っていたら母親がお金を渡しているのを見た。雇われた友人だったんだ」

と打ち明けるシーンがあります。めちゃめちゃ悲しい気持ちになります。

 

友人がいないということは、人との適切な距離が測れないということなのだと思います。

劇中でそれを表現する2つのシーンがありました。

・夜中にマーク・シュルツのところへ行き「一緒にトレーニングしよう!」とやってくるシーン。

・日曜日の家族サービス中のデイブ・シュルツのところへやってくるシーン。

 

マーク・シュルツは対応しますが、デイブ・シュルツは「日曜日なんだ。ごめん」と断ります。

ジョン・デュポンは距離の取り方=入ってはいけない領域がわからないから、デイブ・シュルツに否定されたと思ったことでしょう。

これが殺害の伏線になっています。

 

みっつ目は母親の存在。

残念なことにジョン・デュポンは母親の目を気にして=支配されて生きています。

いい歳したおっさんが完全に子供のまま、というのがよくわかります。

支配されているのがわかる3シーンがでてきます。

・「レスリングチームを作ったんだ」と言えば「レスリングは下品」と否定され、

・母親がレスリングの練習を見に来たら突然デイブ・シュルツに代わり指導をし出す。周りの選手はポカーン

・自分が後援するレスリング大会へ出て「優勝したんだ」と母親に報告して、受け流されるシーン

 

母親の支配から逃れるためにレスリングチームを始めたのに結局は母親に認められたいと思っている。

そりゃ大人になるまで支配されたんだからレスリングチーム作ったからと逃れられるわけないわな。。。

 

ジョン・デュポンはソウル五輪までのドキュメンタリーTVでのデイブ・シュルツの言動を見て犯行に及びます。

デイブ・シュルツはインタビュアーに「ジョン・デュポンの良い所を話して」と言われ、「環境を整えてくれて~」と精一杯に話をするが、ジョン・デュポンはバカにされたと受け取ってしまう。

 

ジョン・デュポンから学ぶべきは、「いい歳して誰かに認められるための人生を送るのはやめろ」ということ。

支配されるなら、最期まで支配され続けるべき。

 

4月4日アートフォーラムで鑑賞。